「第49回学術講演会」を2025年1月25日(土)14時00分から、北海道新聞社1階の交流スペース 道新DO-BOX EASTで開催いたしました。講師に、テレビのコメンテーターや図書出版などで活躍されている認定NPO法人Dialogue for People 副代表、フォトジャーナリストの安田菜津紀氏をお迎えし、「共に生きるとは何か ~難民の声、家族の歴史から考えた多様性~」をテーマにご講演いただきました。
安田さんのお話では、まずガザ地区で出会った人たちの写真を映写しながら、この地域の人々が、歴史的経過が密接に絡む圧倒的な不平等と不均衡、構造的な暴力にさらされていることについて説明がありました。また、そのような軍事侵攻で家などを破壊された経験をもちながらも、東日本大震災で家を失うなどの被害を受けた日本の人たちへの復興を祈念して、毎年3月に子どもたちが凧揚げをしている様子が動画で紹介されました。
さらに、「遠い国のかわいそうな人」のことではなく、私たちの近くに「もうすでに多様な人が生きている」「この社会の隣人を考えること」へと話題が移り、日本における難民認定数の少なさや、入管法の問題、難民認定がなされていない方とその家族の生活などについて、会場への問いを投げかけながら話が進みました。
そして、ガザ地区やシリアの人たちとの出会いは、安田さんご自身の家族のルーツと深いレベルで共鳴していることも話されました。絵本をすらすら読めないお父さんに発した子ども時代の安田さん自身の言葉を何度も紹介しながら、在日コリアン2世だったお父さんの生い立ちや抱えていた思いを知る旅へと誘われたことも紹介されました。安田さんご自身の、誇張もなく言葉が差し引かれることもない口調で語られた、家族の経験を含む構造的暴力の実態は、会場にいたひとりひとりに問いを投げかけていたように思われました。
講演のあとのトークセッションでは、短い時間でしたが人間科学科の大澤真平教員と学生2名が登壇し、それぞれの立場からコメントや質問を行いました。大澤真平教員からは、安田さんの講演内容と関連して「ソーシャル?サファリング」という概念で、他者の苦しみへの責任ということを考える必要性、その苦しみの歴史的経緯を学ぶことの重要性、さらに複数のルーツという「アイデンティティの複数性」を解することが大事だという指摘がありました。
また、学生からは「自分たちの世代がやったことではないことを、どうしていったらいいのか。ヘイトスピーチなど、なぜ人の尊厳が保障されないのか」という質問がありました。それについて安田さんは、「ヘイトスピーチなどをしている人が好きか嫌いかではなく、その行為がおかしいと思えるか」「そしておかしいと誰かに言えることができたら なおいい」と話されました。また、もう一人の学生からは「難民の人などのことを考えたことがない人や、その問題を知る機会のない人に対してどうアプローチしていけばいいのか」という質問があり、安田さんから、「例えば食文化を通して、人や国に出会っていくこともある。日常に接続すると入りやすい。興味の階段をひとつひとつ作っていくことがいいのでは」というアドバイスがありました。
フォトジャーナリストとして一人一人に出会う安田さんの姿勢や行動は、人権と社会正義へのゆるぎない態度に裏打ちされており、またそれがご自身の家族のルーツにつながる社会的痛みの経験で培われてきたものであることも理解できました。
話されている内容は非常に深いテーマですが、とてもわかりやすく、会場との一体感を楽しみながら話されていた躍動感が印象的でした。
※本学の「学術講演会」は、1977年に開催した「学術講演会-人文学部開設記念-」(札幌市)を手始めに、生涯学習の一端を担う地域貢献活動として全道各地で回を重ね、これまで3万人を超える市民のみなさまにご来場いただいております。